三途の川のお茶屋さん
けれど幸子は知らなくていい。
腕に幸子を抱き締める僥倖は手放さぬまま、俺は狸寝入りを決め込んだ。
そうすれば俺の腕の中で、幸子は悟志を想って泣いた。
けれど漏れ聞こえる幸子の呟きから、悟志の亡霊がその立ち位置を低くし始めている事を知った。
幸子を抱き締めながら、俺は仄暗い笑みを浮かべていた。
やがて幸子の押し殺した嗚咽が止む。荒く早い呼吸が、ゆっくりと深いものへと変わる。
そっと覗き込めば、幸子は瞼を閉ざし、薄く開いた唇から微かな寝息を響かせていた。あどけない幸子の寝顔に、切ないほどの愛おしさが募った。
物言わぬ幸子の唇を、そっと啄んだ。