三途の川のお茶屋さん
「あ、十夜、どうやら私なんかにかまけている場合じゃないぞ? 幸子さん、老いぼれ爺さんに言い寄られて困っているみたいだぞ」
懸人が笑いながら茶屋を指差した。見ればなるほど、幸子が爺さんに言い寄られ、困惑の表情を浮かべていた。
「くそっ! 幸子を口説こうなど、いい度胸だ」
慌てて立ち上がり、幸子の元へと駆け出した。
「ははっ、マメな事だ」
懸人はそんな俺の様子に忍び笑いを漏らしながら、船に乗り込んでいった。
「……これは誤魔化された、のか?」
幸子に言い寄る老爺をあしらった後に、気付いた。結局、懸人の存在は有耶無耶のままだ。
「え?」
「いや、なんでもない」
俺の呟きに首を傾げる幸子に、慌てて取り繕う。