三途の川のお茶屋さん
俺は幸子と暮らすまで、カーテンなど一度だって洗った事が無い。恐らく男の一人暮らしなど、そんなものだ。
「はい。カーテンはたまに洗うと一気に部屋が明るくなるんです。気持ちいいですよ」
俺はひとつ頷くと、幸子が外しにくいだろう高窓のカーテンを外してゆく。
「!」
幸子が感動した目で俺を見上げた。
「ありがとうございます!」
「……あぁ」
照れくさくも、幸福な時間。
幸子と同居して、ほんの数日。けれど、共に過ごした月日など、まるで問題にはならなかった。俺の中で幸子という存在が、見て見ぬ振りなど出来ぬほど大きく育つ。幸子のいない暮らしなど、もう考えられなかった。
一度手にした幸福な時を、手放したくない。
ずっとこのまま、幸子を俺の元においておきたい。幸子を俺だけのものにしたい。
胸の中、狂おしいほど、幸子への愛が募っていた。
外したカーテンを腕に抱え、居間を出る幸子の背中を眺めながら、俺は幸子と出会った日の事を思い出していた。