三途の川のお茶屋さん
姿を現した太一様は血走った目に、常軌を逸した異様な気配を身に纏っていた。
その後ろに、太一様とは対照的に、どこまでも凪いだ目をした使徒の娘が寄り添っていた。
太一様は既に数百年という年月を過ごした晩年の神だ。独身を貫き、頑なに使徒や死した魂を遠ざけ、女神だけを一途に求め続けてきた方でもある。
けれど幾度か女神の夫神候補として選ばれながら、全て最後の最後であぶれて番えなかった経緯は、天界において知らぬ者の無い有名な話だ。
「女神を力技で己の手にしようなど、貴方様らしくもない」
「綺麗ごとでは女神は己が手に入らん。この年まで女神と番う男神を指を咥えて眺めてきて、やっと分かったのだ。力技で女神を手にしたそ奴らを野蛮と見下げ、同じには落ちまいと綺麗ごとに生きた結果がこれだ。手段というのは、あまり重要ではないのだと、今になって気付いた。随分と長い遠回りを経て、我はすっかりこんな年になってしまった。この老いぼれに今更、女神の夫候補は巡ってくるまい。ならば奪うしかあるまいよ?」