三途の川のお茶屋さん


「……小町、触るでない。いくら隷属を誓った使徒とはいえ、只人に成り下がった我に付き従う必要などない。誓いは、我が神性を失った今、なんの効力も持たん」

「効力? おかしな事を申します。私の誓いは、己の心に立てたもの。他の何に対して立てたものでもないのです。私の誓いは、私だけのもの。そして、私が誓ったのは隷属とは似て非なるもの」

寂し気な、けれど慈愛の篭った笑みを、使徒の娘は太一様に向けた。

太一様の体の震えは治まり、焦点を結ぶようになった目で、不思議そうに使徒の娘を見つめていた。

「……小町、我の使徒として迎え早十年、我はいまだに其方という者が掴みきれん。こんな事はこれまでの使徒には、なかったのだがなぁ」

使徒の娘は笑みを深くした。

「太一様、私がおります。私では役者不足は重々承知しておりますが、それでもいつだってお側におります」



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