三途の川のお茶屋さん


太一様の気付きがいつになるかは分らない。

それが数ヵ月後か数年後か、はたまた最期の一瞬だけとなるかは、太一様の心次第。

人の身へと転じた太一様に、残りの時間は多くない。その残された時間の内、少しでも長くを、娘との相愛に生きられたらいい。

「娘、太一様を頼んだ」

遠ざかる、二人の背中に向かって呟いた。

振り返った娘は、俺に向かい深く頭を垂れた。

「十夜様、貴方様の温情に感謝いたします」

俺の呟きを、只人となった太一様はもう、拾わなかった。返ったのは、ひらりひらりと風に乗って舞う娘の言の葉だけ。





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