三途の川のお茶屋さん
二人の気配が三途の川を逆流して進むのを確認し、俺は二人の気配を追うのをやめた。
「タツ江婆、すまんが人界に下る二人がそちらに向かっている。最低限必要な身の回りの物を持たせ、送り出してやってくれないか?」
そうして神通力で人界との狭間に住まう、タツ江婆に繋ぎを取った。
タツ江婆というのは神格を剥奪された、あぶれ神だ。何度注意しても、死者の衣服やら貴重品やらの盗み癖が抜けずに、役目を追われた老婆だ。
「そりゃ構わんがね、なにくれる?」
「……一級品の絹の着物を好きなだけ誂えて構わん」
「おや、太っ腹だね。任せときな!」
少々業突く張りではあるが、タツ江婆に任せておけば間違いない。俺は白む空を見上げ、長い夜の終わりにひとつ、特大のため息を零した。