三途の川のお茶屋さん
私は男性の顔を見ていない。けれどあの男性は、悟志さんではあり得ないのだから。
「なんやて!? 人違い! そ、そら堪忍な!!」
おばさんは謝りながらも、少し釈然としない様子だった。
「いいえ。よい船旅を」
私は会釈して、今度こそおばさんを見送った。
そう、どんなに釈然としなかろうが、これが閻魔帳に書かれた事実だ!
おばさんにじゃなく、私は自分自身に強く言い聞かせた。
奇しくも『ほほえみ茶屋』の繁忙が、後押しした。息吐けぬほどの忙しさが、疑念を深堀る隙を与えない。
そうしてなんとか最後のお客様を見送って、長かった今日の営業に幕を下ろした。
遠く船頭の出航の声を聞きながら、私は精根尽き果てていた。