三途の川のお茶屋さん
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私も十夜も、連日忙しく過ごしていた。
屋敷には寝に帰るだけというありさまで、それこそ余計な事を考える物理的な時間がなかった。
そうして一週間が過ぎた頃、団体のお客様の訪れが、やっと落ち着きをみせはじめた。
カラカラ、カラ。
入口の引き戸が、少し遠慮がちに開かれた。
「いらっしゃい……!」
私は振り返って、目を剥いた。暖簾越し、お客様の顔はまだ見えない。
けれど私の視線は、お客様の足元に釘付けになっていた。
お客様はまさかの、ペット同伴だった! い、犬!?
初めての事態に少し、動揺した。それというのも、三途の川に暮らして二十年、ペットという存在を初めて見たからだ。
「あぁ、いえいえ。私は客ではありません。今、十夜はおりますか?」
わ!
暖簾が割れ、お客様の全貌が顕わになる。そうすればその色彩で、一目でその人は天界からの訪問者と知れた。