三途の川のお茶屋さん
「私は幸子と言います。仁王さん、どうぞお掛けになって下さい。お茶を淹れます」
「ありがとうございます。あ……、コマも店内に入れて、構わないでしょうか?」
席に着こうと、店内に進みかけた仁王さんが立ち止まり、遠慮がちに尋ねた。
「はいもちろん! コマちゃんって言うんですね。とっても静かでお利口さんですから、どうぞ一緒に入って下さい」
そもそも『ほほえみ茶屋』は、何人だろうと入店制限は設けていない。ならば狛犬も、またしかり。
私はしゃがみ込み、コマちゃんの頭をそっと撫でた。
「わ、ふわふわ」
コマちゃんは、私の手に頭を摺り寄せるようにして甘えてきた。やはり側頭部のもくもくの渦巻きは、触れているのにその感触がなかった。ただ、ほこほことした温もりだけがあった。