三途の川のお茶屋さん
「いえいえ、とんでもない。もう十分いただきました」
仁王さんは一呼吸置くと、私にこれまでとは打って変わって真剣な眼差しを向けた。同時に仁王さんの膝にのっていたコマちゃんが床に降りた。
「幸子さんはもう、二十年になりますね。こちらの暮らしに不自由はありませんか?」
「? はい。十夜にいつも、助けられています」
若干の違和感を感じつつも、私は仁王さんの問い掛けに素直に頷いた。
答えた通りで、ここの暮らしに不自由を感じた事は一度もない。日々の暮らしの必需品は潤沢に整えられている。
だけど十夜は、物質的なところ以上に私の思いを尊重し、居心地のよい日々の暮らしを与えてくれる。
「十夜がね。正直、アレがそんなふうに気が回る奴だとは思いもしませんでした」
意外だというように、仁王さんは首を捻っていた。