三途の川のお茶屋さん
十夜という人は、気遣いの人だ。私の心の機微を敏感に察して、いつだって私に寄り添う。
私にそれと気付かせぬように、私の感情を先取って、立ち回る。
「単刀直入に聞かせていただくのですが、幸子さんと十夜は夫婦の関係ではないのですか?」
「……はい、私達は夫婦ではありません」
夫婦どころか、私と十夜の関係にはなんの縛りも約束もない。
「幸子さんは、この地にずっと十夜と暮らすのではないのですか?」
三十年と、ゴールの決まった始まりなのだ。だからそもそも、私と十夜に未来を語らう余地などあろうはずもない。
当初、しきりに乗船を勧められていた頃は、脅しみたいに三十年の時の長さを説かれた事もあった。
けれどいつからか、十夜は語る事を避けるようになった。
今はもう、残りの年月にも、十夜は言及をしない。