三途の川のお茶屋さん
仁王さんの用件は十夜じゃなかった。最初から私に伝えるために、ここに来た……。
カラ、カラカラ。
入口の扉が、遠慮がちに開けられた。
暖簾越しに、入っていいものかと、戸惑いがちなお客様の気配が伝わってきた。
「幸子さん、お客様がいらっしゃったようですね。急に訪ねてきて、ぶしつけに言を重ねた事は謝ります。けれど天界の安寧の為に、どうしても伝えずにはおれなかったのです。どうもお邪魔しました」
仁王さんは早口に告げて頭を下げると、コマちゃんのリードを引いて入口に向かった。
「申し訳ありません。店主に無理を言って、狛犬とお邪魔をしておりました。私達はもう出ますので、中へお入りください」
仁王さんは入口で立ち竦むお客様に丁寧に頭を下げると、戸を引いてお客様を中に促した。
「あ、ほんとだイヌッコロ。あはは、なにこのイヌッコロ、ヘンな頭と尻尾でやんの」
お客様は、短いスカートを穿いて、太腿も露わな女子高生だった。
「キャン!」
コマちゃんは一声、不満そうに吠えて、女子高生の足元を通り過ぎた。