三途の川のお茶屋さん
けれど老爺は財布が見つからなかったようで、代わりにポケットから小銭を探し出す。
「おお、なんとか小銭があった」
老爺は五円硬貨を六枚、しわがれた手のひらに載せて差し出した。
「お爺さん、それは船賃に必要ですから、ここのお代は結構です。それより、乗り遅れてしまいますからどうかお早く」
それは半分本当で、半分嘘。
船もまた、規定料金は定めておらず、必ずしも料金が必要ではない。
けれど思いの詰まった老爺の硬貨は、貰うのが憚れた。
「おお、そうか。船賃があったか。では、すまないがお嬢さん、ここはお言葉に甘えてご馳走になります。とても美味しかった、どうもありがとう」
老爺は私に向かい、丁寧に頭を下げると、船乗り場に向かった。
「いいえ。よい、船旅を」
私もまた、深く頭を下げて老爺を見送る。