三途の川のお茶屋さん


店を出たところで、並んで歩く私と十夜の手が触れ合った。触れたその手を、十夜は当たり前のように握る。

ギュッと包み込まれた手のひらの温もりと力強さに、切ないほどの愛おしさが溢れた。

「……十夜は周囲の人に、恵まれてますね」
「どうしたんだ? 唐突に?」

十夜はキョトンとした顔をした。……やはり仁王さんは私と話しをした後、十夜には会わずに帰っていったらしい。

「いえ、ふと以前に聞いた、お酒好きの統括役の話が思い浮んだだけです。その方、お酒だけじゃなく、犬も好きだったんですね」

「ん? あぁ、そうだな。懸人からでも聞いたのか?」

曖昧に微笑んで、私は再び口を噤んだ。

……十夜には、悟志さんの事を伝えない。少なくとも今は、伝える事をしたくない。

今はただ、この愛しい温もりに包まれて、幸福の中を揺蕩っていたかった。



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