三途の川のお茶屋さん
「疲れてる時は、一にも二にも睡眠です。今日はゆっくりおやすみなさい、十夜?」
立ち上がり、寝ぼけ眼で私を見下ろす十夜が、ハッとしたように目を瞠る。
「幸子、泣いていたのか?」
次の瞬間、十夜の美貌がドアップに迫ったと思ったら、目尻にふわりと柔らかな感触が落ちた。
認識した直後、私は弾かれたように顔を引かせた。
「や、やだ! 泣いてなんていませんよ?」
精一杯の笑みで取り繕って、咄嗟に十夜の背中に回る。そのまま階段に向かって、その背中を押した。
「もう十夜ったら寝ぼけて。ソファでうたた寝なんてするからですよ? ちゃんと寝室で寝て下さい? おやすみなさい!」
内心の動揺をひた隠し、急かすように、十夜を押す手に力を篭めた。
「……おやすみ、幸子」
振り返った十夜は物言いたげにも見えたけど、逆らわずに二階の寝室に向かって階段を上り始めた。
十夜が階段を上りきり、階段ホールの角を曲がって消えるまで見守って、私はへなへなとその場に膝を突いた。