三途の川のお茶屋さん


だからこんなにも深く狂おしいほどに悟志さんを愛した。

悟志さんならば、微笑みと共に十夜への愛を赦してくれる。今ならば、そんな確信にも似た思いがある。

三十年という時に固執するあまり、私自身が視野を狭くさせていた。

ひとつの愛に固執する事が、必ずしも誠実とイコールではない。愛はもっと寛容でいい。

十夜を愛する心は不義理でも、不実でもない。

悟志さんを愛した記憶はそのままに、十夜と紡ぐ新しい愛も育めばいい。

純粋に、もう一度愛せばいい……!

私は床から立ち上がると、ゆっくりと窓に向かった。カーテンを開ければ、窓の外には満天の星空が広がっていた。

粛々とした星の煌きに、悟志さんの姿が重なった。

「悟志さん……」

星々に悟志さんの冥福を祈り、静かに頭を下げた。

長い祈りを終えた後も私は窓辺に立ち、星が段々と移ろうさまを、いつまでも飽きずに眺めていた。そうして空が白む頃、私は窓の前を離れた。



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