三途の川のお茶屋さん
タイミングも、ちょうど前の船が出たところ。店内にお客様はいなかった。
入口寄りの席に腰掛けて、扇子でパタパタと仰ぎながら待つ営業さんにお茶を出す。
「すいません、ありがたく頂戴いたします」
私は厨房で食器洗いをしながらも、いつ商談を持ち掛けられるかと、落ち着かない思いだった。
しかし待てど暮らせど、私が呼び止められる事はなかった。
「ふぅー、おかげさまでひと心地つけましたわい。それじゃ、私はこれで失礼いたします」
「えっ!?」
「? 何かございましたか?」
てっきり私への商談が目的かと思っていた。
だって最初に営業さんは、三途の川は遠いと、そう言っていた。
「あ、いえ。目的はここ、ではなかったんですか?」
「ええ、お訪ねするのは三途の川の先、人界との狭間に住まうタツ江様という女性です。私、天界で呉服問屋を営んでおりまして、こちらの管理者十夜様より、タツ江様に最上級の絹で望むだけ着物を誂えて欲しいと、なんとも太っ腹な注文をただいたのです」