三途の川のお茶屋さん
私は頷いて、椅子の背凭れを支えにして自力で立ち上がった。十夜が差し出しかけて留め、宙に浮いたままの手を、もどかし気に握り締めるのを視界の端に見た。
「あの、十夜、さっきの……」
「いや、幸子、謝る必要はない。俺に何か至らないところがあったのは分かっている。けれど情けなくも俺にはそれがなんなのか、見当がつかない。悪いところは謝るし、不足は埋められるように努力する。だから幸子のタイミングで、俺に教えて欲しい。本当は少し距離を置いてやりたいところなのだが、すまないが何かあっては心配なんだ。迎えはいつも通りの時間に来る。先に帰らず、待っていてくれ」
「はい……」
絞り出すように、答えるのが精一杯だった。
十夜は頷いて、静かに『ほほえみ茶屋』を後にした。
謝ろうとした。けれど口先だけの謝罪は、十夜に退けられた。