三途の川のお茶屋さん
十夜は大人で、私も最低限大人の分別を持っていて……。
「幸子、また閉店の頃に迎えに来る」
「はい」
だから十夜との暮らしは、少なくとも表面上は取り繕って、常と変わらずに過ぎていた。
十夜と確執を持った、呉服問屋の来店から既に二日が経つ。
その間、心はずっと霧の中を彷徨っているかのようだった。
それでも『ほほえみ茶屋』の営業に手を抜く事は、私の矜持が許さない。
この日も私は重たい心と体を引き摺って、なんとか開店準備を進めていた。
カラカラカラ。
「ふぅ~。やぁーっと着いたわい。へぇ~え、草臥れた草臥れた」
お客様は開店前のフライング。けれど草臥れたと繰り返す、老齢のお客様を無下には出来ない。