三途の川のお茶屋さん


十夜よりも先に、懸人さんが私に手を振って歩み寄った。

業者さんは遠巻きにこちらを見て会釈だけ寄越す。私も会釈して、返した。

「幸子さん! おはようございます! いやぁ、ちょっと傷が入ってしまっただけと軽く考えていたら、なかなかどうして尾を引いてしまって。全く参ってしまいますよ」

「懸人さん、おはようございます。大変ですね、今日は予備の船で出るんですか?」
「はい、どうやらそうなりそうです」

懸人さんはやれやれと肩をすくめてみせた。

「そうですか。慣れない船で大変かと思いますけど、頑張って下さいね」
「ありがとうございます」

話しが済むか済まないかの内に、十夜が私の前に立つ懸人さんを押しやった。

「懸人、後を任せた。出航の前には戻ってくる。幸子、行こう。それで、来客とは誰だ?」
「お婆さんです」

答えてから、自分の残念さに思い至った。



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