三途の川のお茶屋さん
「なんだ、タツ江婆か。先だっては世話になったな。それで?」
「なんだとは、なんじゃ。人がわざわざこうして出向いて来たというのに素気の無い奴じゃ」
十夜とお婆さんは親し気な様子で軽口をたたき合う。私は二人の邪魔にならないように、早々に厨房に下がった。
「それは足労だったな。それで、わざわざどうした?」
あれ?
タツ江、さん? ふと、気付いた。それは最近、どこかで聞いた名前だった。
どこで、だっけ?
「どうしたもこうしたも、あるかい。そんなのは、ほれ?」
お婆さんは意味ありげに微笑んで、袖をちょいと持ち上げ、くるりと回ってみせた。
「はぁ?」
厨房にまで聞こえてくる、どこか噛み合わない二人のやり取りに、自然と笑みが浮かんだ。
「鈍い男じゃな! 一応お前さんの懐銭で誂えた着物じゃて、こうしてわざわざ見せに来てやったというに。ちなみに遠慮なく、これの他に十枚誂えさせてもらったわい」
!!
けれど聞こえてきたお婆さんの台詞で、一気に血の気が引いた。