三途の川のお茶屋さん
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カラカラカラ。
戸を引く音で、見ずとも来訪者は十夜だと知れる。
「幸子、今日はタツ江婆がすまなかったな。タツ江婆は人は悪くないのだが、如何せん手癖が悪くていけないんだ」
閉店後の『ほほえみ茶屋』の暖簾を潜り、十夜が開口一番に告げた。
「いいえ、お団子もちゃんと足りましたし、結果としてお土産に差し上げて良かったです。タツ江さん、面白い方ですね」
「面白い、ふむ。確かにそうか」
最初はそんな、たわいのない会話をしていた。
「……幸子、何かあったか? ずっと心ここにあらずだ」
けれどついに、十夜が核心に切り込んだ。
私を覗き込む十夜の瞳には、心配の色がありありと浮かんでいた。そこにはただ、私への労わりだけが見て取れた。
あまりに情けなくて、十夜の顔をまともに見る事は出来なかった。
「……私、十夜に謝らないといけません」