三途の川のお茶屋さん
3
日に日に募る、幸子への恋情。けれど俺は、三途の川の管理者としての良識もまた、備えていた。
俺の恋情は偲んで然るべき。
幸子は本来、船に乗せるべきだ。
頭では理解している。けれど俺は、幸子を船に乗せたくない。幸子と過ごすこの日常を、手放したくなかった。
「……幸子、あと何年お前はここにいてくれる? あと何年、俺と共にいてくれる?」
臆病な俺は、この問いを直接幸子には掛けられない。
幸子が俺の元から消えゆく事、それ以上に恐ろしい事などなかった。
毎日、船の最終便の時分には、お茶屋に行かずにはいられない。幸子が万が一にも船に乗り、俺の元から去っていないか、この目で確かめずにはいられなかった。
「今日も船に乗らなかったのか?」さり気なさを装ったその問いは、俺の精一杯の虚勢でもって成り立つ。
その問いをまた掛けられる事に、俺はいつだって心の底から安堵している。幸子がこの地に留まった事に、まるで俺自身が命を繋いだかのように愁眉を開く。