三途の川のお茶屋さん





日に日に募る、幸子への恋情。けれど俺は、三途の川の管理者としての良識もまた、備えていた。

俺の恋情は偲んで然るべき。

幸子は本来、船に乗せるべきだ。

頭では理解している。けれど俺は、幸子を船に乗せたくない。幸子と過ごすこの日常を、手放したくなかった。

「……幸子、あと何年お前はここにいてくれる? あと何年、俺と共にいてくれる?」

臆病な俺は、この問いを直接幸子には掛けられない。

幸子が俺の元から消えゆく事、それ以上に恐ろしい事などなかった。

毎日、船の最終便の時分には、お茶屋に行かずにはいられない。幸子が万が一にも船に乗り、俺の元から去っていないか、この目で確かめずにはいられなかった。

「今日も船に乗らなかったのか?」さり気なさを装ったその問いは、俺の精一杯の虚勢でもって成り立つ。

その問いをまた掛けられる事に、俺はいつだって心の底から安堵している。幸子がこの地に留まった事に、まるで俺自身が命を繋いだかのように愁眉を開く。



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