三途の川のお茶屋さん
幸子は口付けを解いた後も、真っ赤な顔をして固まっていた。あどけない幸子の表情に、一層愛おしさが募った。
「幸子、いってくる」
名残惜しく腕を解くと、俺は開店前の茶屋に幸子を残し、亀裂の報告を受けた上流の堤防に向かった。
堤防の亀裂を一目見て、俺は眉を顰めた。
報告があれば、まずは管理者である俺が出向く。これまでも幾度となく欠損箇所の確認をしてきたが、経験上、今回の亀裂が経年劣化とは思えなかった。
俺の目には人為的に力を加え、意図的に堤防を損傷させているように見えた。
「……悪質な悪戯か? あるいは……」
一瞬よぎったのは、俺を呼び寄せる為の何者かの罠。
「いや、この時間ならば懸人もまだ出航前だ。何があろう筈もない」