三途の川のお茶屋さん
きな粉は残りがある状態で数袋が破かれて、乱雑に放り投げられている。
戸棚は開け放たれたままで、使用済みの皿や湯呑みが無造作にシンクに山積みになっている。
この惨状を一目見れば、とても幸子が切り盛りしていたとは思えなかった。
「ここの店主はどうした!?」
俺は隣にいた中年女性の腕を掴んで問い質した。焦りから、どうしても口調が険を帯びる。
「えぇ? あたしゃ朝一番からここに居るけど、ここに店の者なんていやしないよ? こういうセルフスタイルって流行りなのかね? だけどあたしゃ好かないね。対面式の接客の方が寛げるって、兄さんも思わないかい?」
けれど女性は臆するふうもなく、おっとりとした口調で答えた。
聞かされた女性の言葉に、全身から血の気が引く。目の前の光景に紗が掛かり、怒りで真っ赤に塗り替えられる。
けれどなけなしの理性が、冷静さを失うなと、俺を律する。
「朝一番と言ったな? 何故、朝から二便あった船に乗らなかった? 何故、ここにとどまっている?」