三途の川のお茶屋さん
埠頭に船はなかった。昼を回った今の時分なら、二便目が間もなく対岸に到着する頃だ。
「兄さん、阿呆な事をお言いじゃないよ? 今日は朝から、船なんか出とらんがね。だからこうして皆、ここの茶屋で足止めをされているんじゃないさ。あたしはいいよ、早くからいたから団子を食って待っていたからね。後から来た者はお茶も団子も完売で、文句たらたらさ」
動悸は一層早く、怒りで全身が小刻みに震えていた。
「確認するが、貴方が朝一番にここに来た時、既に埠頭に船はなかったのだな?」
「だから言ってるじゃないさ。船なんか出ていないって。あたしゃ船なんて見てもいないよ」
女性が嘘偽りを言う理由はない。
お茶屋の状況にも、一致している。ならば女性の語る内容が、事実なのだろう。
「そうか、ありがとう。最後にひとつ、頼まれてくれ。これから迎えの船を寄越させる。ここにいる全員を、漏れなく船に乗せてくれないか?」
俺に、猶予はなかった。