三途の川のお茶屋さん


「随分と無茶を言うね。一体何人いると思ってるんだい。そりゃ、おいそれと頷くには大仕事だよ? ……でもそうだね、兄さんあんたいい男だね。いい男の頼みじゃ、無下にもし難いんだけど、でもねぇ~」

迷っている時間はなかった、俺は女性の生前の姿を透かし見る。

これかっ!
俺は女性の耳元に顔を寄せ、囁いた。

「対岸についたら、貴方のために選りすぐりの美男との酒宴を用意する。シャンパンでタワーも出来る。貴方が、主役だ」
「! ふふふふふっ、分かったよ~。ここにいる全員を、来た船に乗せりゃいいんだろ? ふふふふふっ、あたしゃ憧れてたんだよね、いい男にちやほやしてもらって、美味しいお酒でパァーっといい思いするのにね」

これは生前、厳粛な夫に抑圧されて暮らしてきた彼女の願望。ホスト通いを夢見ながら、結局夫や子供達への義理立てで見送ってきた女性は、しがらみを無くした今、トロンとした瞳で快諾した。

「恩に着る! 後は任せた!」
「分かってるよ。兄さんも約束を違えちゃ嫌だからね」

神に二言はない。

深く頷いて、俺は人垣を縫って『ほほえみ茶屋』を後にした。



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