三途の川のお茶屋さん



埠頭に向かうと、空の船乗り場で緊急連絡用のボタンを押した。

このボタンを押したのは、俺が管理者となってから初めてだった。

「十夜、何があった?」

ボタンは直ぐに統括役の仁王様に繋がった。

「仁王様、船頭の懸人が定期運航を放り出し、船で行方をくらましました。本日、一便も船が出ておらず、三途の川は渡航を待つ人々で溢れています。緊急で大型船を一隻手配していただきたい」
「相分かった。船は緊急の扱いですぐに向かわせよう」

仁王様は即答した。

繋げたままの通信を通し、仁王様と部下のやり取りが漏れ聞こえた。

「十夜、大型のジェットフォイルを出航させたから、じきに着くだろう」
「仁王様、ありがとうございます」

ふと、かつて幸子に言われた言葉を思い出した。

俺は周囲の人に恵まれていると、幸子はそう言ったのだ。まさにその通りだった。

「時に十夜、船に懸人は単独か? 幸子さんは、茶屋にいるのか?」



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