三途の川のお茶屋さん
「俺の元からいなくなってくれるな。幸子がいなくなれば俺はもう、今まで通りにここでの役目を全うできない」
俺が腰掛ける居間の長ソファ。かつては一人悠々と中央に腰掛けていたが、今では右端に座るのが習慣になっている。そうして俺の左隣が、幸子の定位置。
左を振り向けば、いつも幸子の横顔がそこにある。そうして艶やかな黒髪から香る清涼な香りが俺の鼻腔を甘く擽る。
もう二十年、変わらない日常の風景だ。
二十年前と変わらない幸子の艶やかな黒髪。けれど二十年前よりも光沢が増している気がした。
ここにある限り、死した魂は没年齢を映したまま、老化の概念はない。なのに幸子は二十年前に出会った時から日々、眩ゆさを増していく。清廉として美しく、俺を虜にしていく。
「神威様、もしかすると全知全能の貴方には、俺と幸子の出会いも行く末も、本当は全て分かっておられるのだろうか……」
良識と本能のはざま、俺はギリギリの均衡の中で幸子との同居生活を過ごしていた。