三途の川のお茶屋さん
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カラ、カラカラカラ。
十夜が店を出て行ってすぐ、引き戸が引かれた。
「十夜? 何か忘れ物ですか?」
作業の手を止めぬまま、厨房から声を張る。タイミング的に、十夜が戻ってきたと思って疑わなかった。
「……幸子さん、私です」
! 聞こえた声に、私は慌てて厨房から顔を覗かせた。
「懸人さん!? すいません、今しがた十夜が行ったところだったので、うっかり勘違いをしてしまいました」
入口にかしこまった様子で佇むのは、懸人さんその人だった。
出航前の時間に、こんなふうに懸人さんが顔を出す事はあまりない。
「懸人さん、何かありましたか? 十夜は堤防を見に行っていて不在にしているんです」