三途の川のお茶屋さん


***


カラ、カラカラカラ。

十夜が店を出て行ってすぐ、引き戸が引かれた。

「十夜? 何か忘れ物ですか?」

作業の手を止めぬまま、厨房から声を張る。タイミング的に、十夜が戻ってきたと思って疑わなかった。

「……幸子さん、私です」

! 聞こえた声に、私は慌てて厨房から顔を覗かせた。

「懸人さん!? すいません、今しがた十夜が行ったところだったので、うっかり勘違いをしてしまいました」

入口にかしこまった様子で佇むのは、懸人さんその人だった。

出航前の時間に、こんなふうに懸人さんが顔を出す事はあまりない。

「懸人さん、何かありましたか? 十夜は堤防を見に行っていて不在にしているんです」



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