三途の川のお茶屋さん


「懸人さん、仰っている意味が分かりません。すみませんが私、どうやら屋敷に忘れ物をしてしまったみたいで、……っ!!」

愛想笑いを貼り付けて、懸人さんの脇を通り過ぎようとした。

すると懸人さんが、私の腕を強引に掴み上げた。指が食い込む力で掴まれて、痛みに息が詰まった。

「待てよ。行かせる訳がない」

明確な意図を持って私の腕を掴む手も、低く冷たい声も、私の知る懸人さんとは別人のようだった。

「なぁ、どうしてお前はただの人として輪廻を回ってくれない? 私はいつか巡ってくるお前の魂を私の船で送る為に、気が遠くなるほどの長い時を、船頭をして待っていた。お前が人として幸福を掴む分には、私は心から祝福してあげられる。それがお前を人に落とした私に、唯一許された贖罪だとも思ってた」

「あの? 懸人さん、待って下さい。仰っている事が分かりません」



< 255 / 329 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop