三途の川のお茶屋さん
一歩跨げば、船に乗ってしまう。私は渾身の力で、両足を踏ん張った。
「幸子さん、煩いよ」
懸人さんは身を捩って暴れる私に舌打ちすると、一旦立ち止まり腰に掛けていた係船用のロープで私の両手を後ろ手に縛り上げた。
「懸人さんお願い! やめて下さい!! こんなのは間違ってます!」
「いい加減、黙らないか!」
懸人さんは氷点下の声音で突き放すように告げた。
「っっ!!」
同時に背中をドンッっと、容赦のない力で押された。
私は船内に突き飛ばされていた。両手の拘束で受け身も取れぬまま、船底に強かに頭を打ち付けて、視界がぐにゃりと撓む。
霞みゆく視界に、十夜の残像が過ぎる。
……十夜、嫌だ。十夜と離れたく、ない。私はまだ、十夜に一番大事な事を、伝えていない……。
涙が一滴、頬を伝って落ちた。