三途の川のお茶屋さん
懸人さんは途中どこかに寄港したらしい。
敢えて私を乗せて、懸人さんは一体どこに寄ったんだろう。けれどその寄港があったお陰で、私はまだ船上を漂っていた。
「タツ江さん、ここはどこですか?」
「懸人が船を漕ぎ出してから、結構経っちまってるんだ。何か感じ取ったのか、こちらを気にしてなかなか目を離さんかった。だからもう、幾らもしないで対岸だよ」
……もうじき、船が対岸に着く。緊張に、ゴクリと空唾を呑み込んだ。
タツ江さんの視線の先を追えば、船首に立ち、オールで舵を取る懸人さんの姿があった。タツ江さんが懸人さんを見る目が、どこか熱を帯びているように感じた。
「あんまり時間がないよ。あたしの言う事をよくお聞き? 対岸に足を踏み入れれば、魂の浄化が始まっちまう。だから着くと同時に、あたしがなんとしても懸人を対岸に引き摺り下ろす。お前さんはその隙に船を出すんだよ。船さえ出しちまえば、後は何とでもなる。三途の川を漂っていれば、十夜がきっと見つけてくれる」