三途の川のお茶屋さん
懸人さんは表情のない、能面のようだった。
私を見ているのに、見ていない。それはまるで、『ほほえみ茶屋』を訪れるお客様のようだった。
懸人さんの手が伸びる。
「っ、ぁぐっ!!」
避ける間もなかった。気付いた時には首を掴み上げられて、息堰き止められる苦しさに喘いでいた。
容赦のない力が締め上げる。血が、巡らない。呼気が止まる。
苦しさは熱を生む。
頭の中が真っ白に焼かれる。苦しさに宙を掻く手も熱く燃え尽きて、パタリと床に落ちた。
……あぁ、十夜。
消えゆく意識の狭間で思った。対岸に下ろされて、忘却の輪廻に巡るより、こうして十夜を想ったまま逝ける方が余程に幸せかもしれない。
だって私は、十夜を忘れたくなんてない。最期の瞬間まで、十夜だけを覚えていたい――。