三途の川のお茶屋さん
祝福の余韻覚めやらぬその晩に、両親の目を盗んだ兄に、私は抱えられていた。
「お前が男の子だったらよかった。そうすれば僕は、こんな醜い感情に苦しまなくて済んだのに……お前を弟として愛せたのに……」
予感は、現実となって私を襲う。
兄の切ない告白を耳にして、私は暗闇の中へと投げ落とされた。
落ち行く私を見下ろす兄の表情は、苦渋に歪んでいた。
兄により、私が麗しい両親の腕に抱かれる機会は永遠に断たれた。それは、とても悲しいこと。
だけど不思議と、兄への恨みや怒りといった感情は湧かなかった。
心優しい兄が、私のせいで嫉妬心に苦しむのを申し訳ないとさえ思った。
なにより、この世で唯一同じ血を分け合った兄との別れが寂しい。兄に咎がなければいいと、落下の中で私は願っていた。