三途の川のお茶屋さん



懸人さんとタツ江さんが光の渦に呑まれて消えてしまっても、私は二人が消えたあたりに向かいずっと祈りを捧げていた。

「幸子」

十夜に肩を抱き寄せられて、私はずっと垂れていた頭を上げた。

見上げた十夜は、包み込むように優しい目で、私にそっと微笑んだ。

「なに、心配せずとも二人は大丈夫だ。もちろん阿修羅の道は長く険しい。けれど幸子の祈りが、阿修羅の道を行く二人の足元を照らす。祈りの燈火を頼り、懸人とタツ江婆はいつか三途の川に戻る。いつか来る未来、幸子は必ず『ほほえみ茶屋』で、二人と再会を果たす事になる」

十夜がくれたのは曖昧な慰めでなく、力強い断言。

「十夜……」

言葉にはきっと、魂が宿る。

十夜の言葉は言霊になって、私の胸にふんわりと沁み込んで居場所を作る。

そうすれば胸に巣食う不安が、瞬く間に昇華する。




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