三途の川のお茶屋さん


「十夜、本当はもうずっと十夜を愛していたんです。本当は気付いてたのに、三十年という年月を免罪符にして、臆病なまま現状に甘えてしまったんです」

間近に見る十夜の瞳。
情欲に濡れ、奥に煌く紫が常よりも艶めかしい。

「幸子、そもそも三十年という年月を提示したのは俺だ。だから今更、それをどうとも思わない。俺はただ、幸子と想いの重なった今が、苦しいくらい嬉しい」

十夜の誠実で真摯な愛が胸を打つ。

私は一体、何を恐れていたんだろう。

愛する事に、不安も打算もいらない。愛しいと思うその心に、従えばいい。

愛しい思いのまま、突き動かされるように十夜の唇を奪った。

十夜は僅かに目を見開いて、けれど微笑んで私に応える。重ね合わせ、何度も角度を変えながら感触と温度を余すところなく味わい尽くす。



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