三途の川のお茶屋さん
「十夜は本来なら、ふかふかの肘付き椅子から部下に指示を出してふんぞり返っていられる立場です。やっぱり中央の要職の方がいいって、思ったりしませんか?」
今朝も、自ら船の修繕に出向いて汗を流した十夜に向かい、冗談めかして聞いてみる。
「はははっ! それも魅力的ではあるが、富名声などという面倒な物は俺には不要だ」
十夜は破願して、私の僅かばかりの憂いを、いとも容易く吹き飛ばしてくれた。
「けれどそれ以上に俺の欲は深い。幸子、お前を生涯離さない。離してやらない。穏やかに時の流れるここ、三途の川で、俺は幸子と生まれてくる子供らと共に暮らす。それこそが俺の望みだ」
十夜の熱い胸に抱き締められて、深い十夜の愛に包まれる。
内と外から、じんわりと温かな熱が全身に巡る。
「嬉しいです。ちなみに十夜、私だって十夜に負けず劣らず欲深いんですよ? だって同じ事を、私も望んでいるんですから」