三途の川のお茶屋さん


トントンと私の背中を擦り、笑みを残して厨房を出て行く十夜が、一回り大きく頼もしくなっている気がした。

ちなみに、かつて十夜の事を皿の一枚も洗わない、なんて思っていたのは大間違いだった。十夜が本気を出したなら、家事スキルは超プロ級。お茶屋の切り盛りも、またしかりだ。

今も十夜は、続々と来店するお客様をテキパキと捌いていた。

「そうよ、さっちゃん。あとは、あたしがやれるわよ~」

そうしてもうひとつ、驚く事に『ほほえみ茶屋』は開業三十年目にして、まさかの人員補充を叶えていた。

管理者が本業の十夜を私の産休育休中、ずっとお茶屋の亭主にしておく訳にはいかないと悩みに悩み、思い切って求人の張り紙をした。そうしたらまさか、その日の内に、応募者があったのだ。

私は応募者を一目見て、愕然とした。



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