三途の川のお茶屋さん
コマちゃんの厚意に甘え、私と十夜は並び立って『ほほえみ茶屋』を後にした。
十夜に腰を抱かれ、ゆっくりとした歩みで屋敷への道を進む。
横に走る三途の川は陽光を受けて、水面がキラキラと煌く。空は、抜けるように青い。
今日の三途の川は、眩しいくらいに清々しかった。
「なぁ幸子、気付いているか?」
何を、と十夜は言わない。
「はい、気付いてますよ。でも、それだけです」
ちょうど今日が、私が三途の川に来て三十年目。三十年目の今日、婚約者だった悟志さんと対面を果たすために、私は三途の川に残る事を決めた。
かつての私にとって、今日という日が節目だった。