三途の川のお茶屋さん
【番外編】 幸せ者 side タツ江
正面玄関は素通りした。そうしてあたしは、勝手口に回った。
コンッ、コンッ。
「ごめんくださーい」
軽く戸を叩きながら、中に向かって声を張れば、すぐに中から戸が開かれた。
「はーい、いらっしゃいタツ江ちゃん。また赤ちゃん、見に来てくれたの?」
連日の来訪にも、おばちゃんはちっとも嫌な顔をしない。
最初は正面玄関から訪ねていた。けれどいつの頃からか、あたしはおばちゃんが家事を熟す台所に繋がる、お勝手の戸を叩くようになっていた。
「はい、毎日すいません。母からも、あんまり行っては迷惑だって言われてるんだけど、どうしても懸人の顔が見たくって」
「何言ってるの。訪ねてくれて嬉しいわ。さぁどうぞ、こっちで未来の旦那様のお顔を見てあげて?」
おばちゃんに促され、未来の夫が眠る子供部屋に上がった。
懸人はおくるみに包まれて、健やかな寝息を立てていた。