三途の川のお茶屋さん
その晩は居間のソファで十夜と二人、肩を並べて一夜を明かした。
私がぽつりぽつりと、生前の母の思い出を語る。十夜はそれに、静かに耳を傾ける。
その穏やかな瞳を横目に見ながら、私は十夜の影響力の大きさを感じていた。
こんなにも充足し、柔らかに凪いだ気持ちでお母さんの旅立ちに向き合えるのは、他ならない十夜がいてくれるから。
「幸子、母上はとても素敵な女性だったのだな」
そうして一夜語り明かし、白む空を望む私は、晴れやかな心でお母さんとの決別ができていた。
「はい。自慢の、お母さんでした」
十夜の腕の中、そっと瞼を閉じ、お母さんに別れを告げた。
お線香も、読経もない。
だけど確かに、お母さんの魂に彩を添えた一夜だった。慈しみに満ちた、弔いの一夜が明けた。