三途の川のお茶屋さん
2
その日、珍しく『ほほえみ茶屋』は閑古鳥が鳴いていた。
けれどそれは『ほほえみ茶屋』だけではなかったようで……。
今日の第一便の出航時刻が迫っていた。けれど船頭の懸人さんがまだ、乗船せず埠頭に立ったままだった。
「懸人さん? どうされたんですか?」
これはそうそうある事じゃない。思わず懸人さんに声を掛けていた。
「ああ、乗船客がまだ一人もいないんだ」
長く船頭を務める懸人さんにとっても、これは珍しい事のようだった。
「え? 船もお客様がいないんですね!」
懸人さんは、手元の時計を食い入るように見つめていた。
「……出航時刻だ」
そうして低く、呟いた。