三途の川のお茶屋さん


なんと、出航時刻になっても乗客はいないまま。船は対岸に渡る目的がないままに、埠頭に揺れていた。

「懸人さん、よかったらお店にいらっしゃいませんか? お客様もいない事ですし、一服をしませんか?」

『ほほえみ茶屋』の営業中は、懸人さんも仕事中だ。だから、たまにお団子を差し入れたりはするけれど、懸人さんがお客様として『ほほえみ茶屋』を訪れた事はない。

一緒にお茶を飲む事も、またしかり。

「幸子さん、それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな」

懸人さんも二つ返事で、応じてくれた。

「懸人さんは醤油ダレのお団子でいいですよね?」

懸人さんはあんこもきな粉も食べるけれど、醤油ダレのお団子が一番好きだ。

「すいません」

懸人さんは照れたように頷いた。私は厨房でお団子と煎茶を用意すると、懸人さんと二人、向かい合って店内中央のテーブルに腰掛ける。



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