三途の川のお茶屋さん
「私は、十夜とは違う」
けれど私の言葉に、懸人さんは一層表情を曇らせた。
「? 懸人さん?」
「……ねぇ、幸子さんは天界の禁忌を知っている?」
懸人さんは一転して明るい声で、唐突に聞いてきた。
「ええっと、確か嘘と殺傷が駄目……だったかな?」
三途の川に暮らして二十年。
それなりに天界の知識も耳に入ってくる。
「私はね、かつてその禁忌を犯した」
「え!?」
「私はかつての罪により、永遠に天界に受け入れられる事はない。かと言って、次の生にも辿り着けない。船頭という仕事はね、私に与えられた罰であり、温情でもある。生者と死者の狭間を永劫に行ったり来たり、それはまさに私にはうってつけの罰。けれど船頭を続けていれば、いつか出会えるかもしれない、その望みは温情。そして事実、……私は出会えた」