三途の川のお茶屋さん
さっきまでの静けさが嘘のように、あっという間にお客様で店内はほぼ満席になった。
「幸子さん、ごちそうさまでした。このお礼、いつかするから」
「やだ、気を使わないで下さい。私がしたくって懸人さんをお誘いしたんですから。ゆっくりお茶が出来て良かったです」
「……良かった? いいや、それは私の台詞だ」
謎の台詞を残し、懸人さんは混み始めた店を後にした。
「お姉さん、お団子まだ?」
「はーい、ただいま」
そして忙しく立ち動くうちに、確かな違和感は、いつの間にか記憶の片隅へと追いやられてしまった。
ちなみに懸人さんの船が出航しなかったのは、私が知る限りこの一度だけ。
だから懸人さんを『ほほえみ茶屋』に招いたのも、後にも先にもこの一度だけだ。