三途の川のお茶屋さん
遠ざかる船が見えなくなるまで、私と十夜はずっと、並んで船を見送っていた。
「行ってしまいましたね……。それにしても、十夜は随分と幼い子の扱い、慣れてるんですね?」
胸の中は、色々な感情が渦巻いて騒がしい。
私は目を逸らすかのように、敢えて核心に遠い話題を振っていた。
「そうだったか? まぁ魂の見た目だけで言えば幼かったが、彼女の実年齢はもう成人だけどな」
「! うそっ!? だって、ほんの三歳くらいに……っ!」
……いいや、よく考えれば、分かる事だ。
何故なら子供の魂は、『ほほえみ茶屋』には来ない。
三途の川は老若男女問わず渡る。けれど子供の魂は、大人とは別枠で子守り地蔵様が一人一人抱き上げて専用の船に乗せる。
それを鑑みれば、少なくとも彼女の実年齢は、大人という事……。
「彼女の魂は、幸子に触れて煌いて対岸に行ける。俺が抱き上げたり、体を使って遊んでやれば、彼女は初めての体験に確かに笑った。けれど、彼女の本当に欲しかった物は、俺には与えてやれない。それを疑似的にとはいえ幸子、お前が与えてやった。彼女は欲しかった母の愛を、お前に重ね、体感する事が出来た。俺では、成せなかった」