三途の川のお茶屋さん
神の身である十夜は透かし見て、彼女の生前の事情を知るのだろう。私はそれを知らず、実際に接した彼女の様子から察するしか出来ない。
……生前から、彼女はずっと、母親を求めていたんだろう。私はもちろん、彼女の母親じゃない。
けれど彼女は、私にママと呼び掛けて、ここ一番の笑顔を残して乗船した。腕にはまだ、彼女の温もりが残っていた。
「可愛い子、だった……」
だけど成人を迎えても、無垢で可愛いままの彼女の魂……。
「なぁ幸子、人は皆、神を全知全能と思って疑わない。けれど、実際はそうではない。神もまた、無力だ」
神は出生に介入しない。
出生に際し、一定の確率で、障がいは発生する。けれどそれに神の意志は介在しない。
彼女の母親はきっと、障がいを持って生まれたあの子を受け入れられず、神を恨み、目を逸らし続けた。
けれど私には、それを非難する事は出来ない。誰が何の権利でもって他者を糾弾出来るというのか。