三途の川のお茶屋さん
かつての記憶は、今も私の心に色褪せずに残っている。
閉じていた瞼をそっと開く。十夜が優しい眼差しで、私を見下ろしていた。
「……十夜、あの時の彼女を覚えてますか? 彼女は今頃、どうしているでしょうね……」
「なに、今頃は両親の元でつつがなく過ごしているだろうさ」
神が個々の魂のその後を追う事はしないから、これは十夜の憶測で語られた言葉。
けれど私には、十夜の語る言葉が彼女の今を映す鏡のように思えた。
「そうですね。今頃ママにも、それからパパにも、いっぱい抱き締めてもらってますね」
私と十夜は顔を見合わせて、微笑み合った。
肩に触れる十夜の手のひらが、燃えるように熱い。
けれど、あらゆる感情が木霊す私の心の中は、もっとずっと熱い……。
あと、十年……。
十夜と暮らす我が家は、もう目の前だった。